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マウス標準系統プロファイリング

ヒト疾患モデル動物として、遺伝子改変が容易であるマウスが広く利用されており、 生物資源バンクで維持しているマウス系統の多くは遺伝子改変マウスです。 C57BL/6、129、FVBなどの近交系マウスが利用され、多様なモデルマウスが作成されていますが、 期待された表現型が得られないこともあります。 マウスには系統差があり、遺伝的背景として用いた系統によって表現型が大きく変わることが知られています。 例えば、6系統の血清中の総コレステロールを比較してみると系統差があることがわかります。

総コレステロールの系統間比較

総コレステロール

B6: C57BL/6JJcl, DBA: DBA/2JJcl, BALB: BALB/cAJcl, FVB: FVB/NJcl, C3H/HeN: C3H/HeNJcl, C3H/HeJ: C3H/HeJJcl

8週齢で日本クレアより購入。8-12週齢の4週間、飼料CE-2(日本クレア)を与え、医薬基盤・健康・栄養研究所動物施設にて飼育。 16時間の絶食後、採血した。オス8匹、メス8匹供試。 ドライケム7000V(富士フィルム)にて血清生化学値を測定。 Values are means±SD.

→他の血清生化学データはこちら

また体重変化についても系統差があります。C57BL/6J (B6)とDBA/2J (DBA2)について比較した結果が以下のグラフです。 8週齢で日本クレアより購入したマウスに4週間、通常飼料CE-2(日本クレア)あるいは高脂肪飼料QF(日本クレア)を与え、 体重を測定した結果です(オス8匹、メス8匹供試)。

高脂肪飼料を摂取することで、体重増加が認められますが、メスにおいて、特に系統の違いが明確に表れています。

C57BL/6J (B6)とDBA/2J (DBA2)の飼料と体重変化の比較

→他系統の体重変化についてはこちら

さらに各臓器に発現している遺伝子量についても系統差が存在します。 一例として褐色脂肪におけるUCP1の遺伝子発現を比較した結果をお示しします。 UCPはミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させ、エネルギーを熱として放散しますが、 褐色脂肪細胞のUCP1は肥満になると低下することが知られています。

UCP1発現量の系統間比較

B6: C57BL/6JJcl, DBA: DBA/2JJcl, BALB: BALB/cAJcl

8週齢で日本クレアより購入。 8-12週齢の4週間、通常飼料CE-2(日本クレア)あるいは高脂肪飼料QF(日本クレア)を与え、医薬基盤・健康・栄養研究所動物施設にて飼育。 16時間の絶食後、採血した。 オス8匹、メス8匹供試。褐色脂肪よりRNAを抽出し、TaqMan probeを用いたReal Time PCR法にて発現解析を行った。 Values are means±SD.

→他の遺伝子発現解析データはこちら(準備中)

このようなマウス表現型の系統差を利用することで、 疾患研究に必要な多様性、すなわち人種差、 個人の体質差に応用可能な多様な疾患モデルの作成が可能になるのではないでしょうか。 また遺伝子改変動物等を作成する前に、目的とする疾患になりやすい性質をもったマウス系統を選択できれば大変効率的です。 さらに食餌、飼育方法など環境要因が表現型に大きく影響することも知られておりますので、 遺伝的背景と環境要因を組み合わせることも効果的です。

実際に遺伝的背景を変えるにはどうすればよいのでしょうか?

変異遺伝子等を導入したい系統に12回以上の戻し交配を行って、変異遺伝子以外の遺伝的背景を入れ替えます(コンジェニック化)。 3年以上の歳月を要することになります。 しかしながらマイクロサテライトマーカーを用いたスピードコンジェニック法を用いると6-7回の交配(約1年半)で完了します。 近交系マウス間の遺伝子多型については既存のデータベースが利用可能です。

マイクロサテライトマーカーについては以下のデータベースMMDBJをご参照ください。

http://www.shigen.nig.ac.jp/mouse/mmdbj/top.jsp

今では少なくなりましたが、トランスジェニックマウス作成にハイブリッド系統(例えばBDF1)を利用、 ノックアウトマウス作成に129系統由来ES細胞を利用することがあり、 そのような場合は例えばC57BL/6マウスと交配を繰り返し、 コンジェニック化してから病態解析に用いる必要があります。 その際にもスピードコンジェニック法は大変有効な方法です。 また、自然発症モデルマウスの原因遺伝子は連鎖解析にて同定することが多いのですが、その解析についてもサテライトマーカーを利用します。

またmultiplex PCR法を用いることで、より簡便にサテライトマーカーを検出できることができます。 一例としてD1Mit200, D1Mit253, D1Mit206, D1Mit217(プライマーは上記データベース参照)のmultiplex PCRの結果をお示しします。 以下の写真のように効率よく、複数マーカーの結果を同時に得ることができます。

multiplex PCRの結果

3.5% アガロースゲル

左:C57BL/6J, 右:DBA/2J 上からD1Mit200, D1Mit217, D1Mit253, D1Mit206

マウス系統の多様性を利用し、疾患モデルマウスの作成に生かしてみませんか?